高校のガバ(続)

実は、1年次の強歩大会でとても残念な想いをしたことが一点だけあった。途中棄権ではない。それ以外にももうひとつあった。

おにぎり、である。

途中の沿道には、お昼近くになっておにぎりを配ってくれる地域の方がいるとの噂だった。なぜか知らねど、おにぎりと聞いてむしょうに食べたくなった想いがある。途中棄権で道端に横たわっていたとき、そのまま眠りに陥ったのだが、お腹がすいていたのだろうか。今年こそは、そのおにぎりとやらを食おうではないかといきり立っていたわけである。

去年と同様、女子のスタート、そして男子のスタートがあった。今年の1年には●×とかいう、おそろしい強豪がいるらしい。どんな顔か拝めさえでもしたら、それはそれで合格点を自分に与えてもよい。

今年は去年と違ってUJCのメンバーがいる。しかし、スタート前に話していたのは、奴らを気にせず先に行ってよいとのありがたい言葉だった。

そして、去年倒れたあたりまでUJCのメンバーといっしょに走ったろうか。その後は自分のペースで走り始めた。

その後は断片的にしか覚えていない。しかし唯一覚えていないのは、コースも終盤にさしかかるあたり、国道に入る前までに心臓破りの坂が待ち構えている。そのあたりに来ると、走るどころの騒ぎではない。およそ30数キロ走った地点であろう。

坂は大きなうねりを見せ、遠くまで前方が確認できる。

いた!

そこに確認したのは、(後で知るのだが)一学年下の別の強豪の●×である。彼は歩いている。私もその時点では早歩きをしていた。だが、私の身長(歩幅)を考えると、おそらく坂が終わる前までには追い抜けるのではないだろうか。

歩いている人間を、しかも同じくらいのペースで抜くときほど、遠慮するものはない。なんとなく申し訳ないようだが、相手が闘志を燃やし出すとこれまた競争は混戦状態となる。そのときの彼はおそらく負けを悟っていたのだろう。比較的ゆっくり目のペースではあったが、私は必死に追い抜いていた。

そして後は大きな下りと最後ゆっくり目の上りで終わりである。自分が何位につけているのかはよくわからなかった(もうどうでもよくなっていた)が、それでも、今追い抜いた奴にゴール前で追い抜かれるのだけはごめんだ。そこで、とにかく、彼のペース以上の走りを見せてこのままゴールを狙いたい。

それしか考えていなかった。でも、確認のために後ろは見たくない。確認した途端に、例の彼がすごい形相で追いかけてきたら私は座り込んでしまうだろう。後ろだけは振り返れない。

そして、ついに学校のグラウンドに。ゴールは間近である。

ゴールイン!

2位だった。

去年の途中棄権が、今年は2位。全校生徒はおよそ600名程度。その中の、しかも何の部にも所属せず、自分で作ったUJCで走った1年の結果が強歩大会の2位である。

自分でやればできる。

中学の頃のカセットテープ学習にしても、高校のUJCにしても、自分で何かをはじめてもいいんだよ、という神からのメッセージだったのだろうか。私は益々自信を持つのだが、それが続くのも時間の問題だった。